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「早く、早く、広げて見たいわ」
「そんなにせかさないでおくれ。この角の額縁のところ、ここがいちばん肝心なんだから。」
そんなやり取りが、聞こえてくるような光景です。この銅版画の原画は1898年です。まさにヴィクトリアンの中産階級の日常のひとコマです。ヴィクトリアン時代とはヴィクトリア女王即位の1837年~1901年の崩御までのヴィクトリア女王の治世をいいます。世界に先駆けて、いち早くイギリスが産業革命を成し遂げ、かつてない繁栄を誇った時代です。それと共に、ドイツから来た夫のアルバート公との間に8人のお子様がおられ、当時のイギリスを代表するあたたかい家庭を築いておられました。
この時代に中産階級(サラリーマン)が生まれ、地下鉄、電話などいまの私達の生活の基本となるほとんどのものが生まれました。
もちろん、女性の社会進出もあり、トーマスクックによってツアー旅行がはじめられたのもこの頃です。
わたしは、グラダナTVのシャーロックホームズ(時代考証が完璧とゆうことで有名)が大好きで、時間があると、DVDを隅から隅までみていますが、まさにヴィクトリアン。そして、アーサーリバティの生きた時代とぴたりと一致しています。ヴィクトリア女王(1819年~1901年)・ウィリアムモリス(1834年~1896年)・リバティ氏(1843年~1917年)・シャーロックホームズ(シャーロッキアンに言わせると1850年前後生まれ)
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この絵はいろいろなことを教えてくれます。
たぶん、この二人の女性は祖母と孫娘か、孫のお嫁さん?
暖炉の左側のウィングバックチェアーがおばあちゃまの定位置なんでしょう。彼女の右側には、ヴィクトリアンワークボックス(お裁縫箱)がおかれ、なかに布が入っています。その横のバタフライテーブルには糸立て付き針山のくけ台があり、飲みかけの赤ワイン。足元には大きなはぎれ袋。今出来上がらんとしているのは、ボルティモアフレンドシップキルトの最後の角の仕上げです。私はボルティモアキルトのピースの色の華やかさからパッチワークの歴史の中では、近世のものと思っていたのですが、1840~1860年にかけて流行したもので、アメリカのペンシルバニアに住む英国系アメリカ人がブロックを持ち寄り、作ったフレンドシップキルトが始まりのようです。当時は教区を移られる牧師様に贈られるのが通例なので、きっとこの老婦人がトップにするのを引き受けたのでしょう。
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若い方の女性は(結婚指輪がみられます)いままでお手伝いをしていたけれど、(カウチの上に裁縫道具)きっと、銀行?にお勤めのご主人が帰宅するまでに夕食の準備をしないといけないので、気がきではありません。すでに夕方4時前です。ロンドンの冬は4時を過ぎると真っ暗です。この頃はやった刺しゅうの暖炉の火の火照りよけがすでに奥にしまわれています。
火照りよけのスクリーンはモリス商会でも刺しゅうのキットが大ヒット商品でした。暖炉のまわりのタイルもモリス商会のものかもしれません。オランダ製“デルフト”のタイル地に手書きの模様を入れたタイルを数多く発表しています。暖炉の上に飾られた東洋風の花瓶、時計の両側の銀製の花瓶、これらはリバティ商会で買ったのかもしれませんね・・・
この銅版画は、数年前にロンドンで古いリバティプリントを探している時に出会いました。私の発音の悪さと、つたない英語のため教えられたお店にいってみたら、版画や初版本を扱うアンティークショップでした。版画のことも“プリント”ですものね・・・でもお店の人がこんなのがあるけれど、と、見せてくれたのがこの絵でした。そのお店では若草物語や赤毛のアンの初版本も見ることが出来てかえってラッキーでした。
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